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夜の国のクーパー/伊坂幸太郎/創元推理文庫刊
クーパーって猫じゃないのか、と第一感。
発売当時とても宣伝していたせいか「猫」と「私」の話だと知っていて、なんとなくクーパーっていう猫の話かと思っていました。
違いました。
クーパーとは伝説の動く杉の木で、毎年杉林の中から一本が変態し、人に害をなすそうです。
だからその国では、毎年「クーパーの戦士」を3人選び、クーパーを倒す旅に出るそうです。
クーパーを倒す方法は、長い歴史の中で確立されてきたけれど、選ばれた戦士はクーパーを倒した後、透明になってしまう、のだそうです。
とてもファンタジーな小説。ロアルド・ダールの児童文学のような。
まあまあ長編ですがまあまあやさしいので気軽に読める感じです。
前半はどうやら異国に流れ着いた「私」(一般的な伊坂の主人公)が猫のトムに、その国で今起きていることをあらかた聞かされることになります。
猫のトムは人間たちのことを社会の外から眺めているわけですが、猫らしい語りには猫とネズミのことも出てきます。人間たちが戦争をしている間、ネズミたちも改革に挑んでいる。いわく、「我々を襲うのを控えていただけませんか」と、猫に、持ちかける。トムは起こった出来事から、猫らしからず、いろいろなことを考えます。「まさかネズミが話せるとは思わなかったけど、話を聞いてやったほうがいいだろうか」「でも関係ないことには興味が持てないよな」
後半、回想が終わると、関係なかったトムは私に頼みます。「この国の人間を助けてほしい」と。
とても巧緻に富んだ構成で、よく練られていると感じました。
伊坂らしい独特の感性と、何冊も書いてきて手に入れた文章の組み立て方の技巧、両方がよく発揮されていると思います。
視点を変え、考え方を柔らかくするための喩え話を、くどくなく盛り込んでいるのですらすら読めてわかりやすいのがとても良いです。
この本はとても面白かったんですけども、ところで、筆者はこのようなプロっぽい「よくできた」本がなんとなくあんまり好きではないのです。
なんでだろうなあ。
なんというか、文章の壁が分厚くて、もともとの何かそこにあったものが見えづらい感じがするのでしょうか。
例えば、登場人物の複眼隊長(人です)が「いろんなことを疑った方がいい」と言う場面があります。
ここだけ、物語にそぐわない、作者のストレートなセリフが出ているように思いました。
そして筆者はこの浮いているセリフが好きでした。裏を返せば、このセリフに沿った物語の方が読みたかったということになります。
最近立て続けに伊坂作品を読んでいるせいもありそうです。
他にもっとすごい本がたくさんありますよ、と言いたくなるのだけれど、比べるものではそもそもないので、ここらで閉じたいと思います。
ありがとうございました。
クリムゾンの迷宮/貴志祐介/角川ホラー文庫
平成十一年、初版。
正直、出たとき読んでればよかった。
面白くないことはないのだが、「飽きた」と思ってしまった。
ただ貴志作品にしては群を抜いて薄いので読みやすいし薦めやすいではある。
「ゲーム」要素で強く縛られた作品である。主人公は岩山で目覚め、記憶を一切失っている。そしてゲームボーイカラーのようなゲーム機械を持たされ、賞金と生命のかかったサバイバル・デス・ゲームに強制的に参加させられる。否、既に参加させられている。
参加者は全部で9人、脱出できない荒野の中で、思い思いにグループ行動をとることになる。主人公はアクシデントにより、大友という女性と一蓮托生の身になる。
取材魔と言われるらしい、緻密な描写が多い。舞台は実在の地であるが、非常に作り物めいた、ゲームに相応しい場所である。
悪の教典の時にちょっと書いたが、こういった状況設定は本当に素晴らしい。よく見つけてくるもんだと思う。
貴志作品にしては人物の描写が浅くて物足りない。特に主人公ペア以外のことは殆ど描かれない。初期作品だからか。単に薄さの(頁のだ)問題かもしれない。
バトル・ロワイヤルと同時期だなと思ったら、完全に同じ月に発行されたものだった。運が悪いというか、流れの中での必然というか。
このジャンルでは発祥の一つと言えるだろう。
続き↓に同系統の作品を知る限りでまとめてみる。
この作品に限らずネタバレになる恐れがあるので、その点留意していただきたい。
また、書き漏らしている作品をご存じの方が居られましたら、教えていただけると幸いです。
余筆。
ようするに似た話をいくつも見てしまっているので、意外性が私のなかになく、それだけで価値が下がるわけではもちろんないけれど、続きが気にならないなあ…という印象がある
パラサイト/The Faculty/ロバート・ロドリゲス/1998 アメリカ
面白かった。
筆者の中では五指に数える傑作。
…ロクなの観てねーなとか言わないように。
B級エイリアンもの。
しかし、SF・ホラーというよりサスペンス、いや学園ラブロマンスと言った方がいいんじゃないか。
出だしがかなりグロいけど、へこたれてはいけない。
最初15分見てよっぽどやめようかと思ったけど、最後まで見て本当によかった。
とりあえず、SF的には大変よろしくない。
基本的には先達のSFを意識したオマージュ色が強い。
wikiによると「盗まれた町」がベースになっているという。作中でも同作の存在には言及されているのだが、残念ながら未見なので相似点までは気付かなかった。
パラサイト=エイリアンの実態説明がこじつけがましいというか、SFマニアのストークリーの勘に投げっぱなし。
その勘がたまたま当たってて結果オーライなのは仕方ないからいいとしても、生態がおかしくてなんか納得行かない。
盗まれた町読めば納得するのかなあ…。
エイリアンものだからびっくり系ホラーではあるんだけど、モンスターパニックではなくゾンビ映画みたい。
エイリアンに全員侵食されたアメフトチームが列を成して向かってくるところなんかすごくゾンビでした。
しかも怖くないの。
それじゃ何がよかったかっていうと。
そもそも話の骨子がエイリアンの生態ではなく、人間の在り方みたいなものに向いている。
そのうえで主人公チームが高校生六人なので、若さ故に単純でヒロイックな結論に至る。
いいじゃないの。
はたまた、エイリアンの方も心情が掘り下げられていて、何故地球を侵略したのか、丁寧に描かれる。
そこが斬新だったし、掘り下げたキャラクター背景の見せ方繋げ方も巧くて最高にドキドキした。
好きな人がエイリアンになっちゃって、気持ちのやり場がないっていうあのシーン。泣ける。
なにしろ六人も主人公格がいるわけで、誰かしらには共感してしまうというのも良い。アイドルグループと一緒ですな。
プチばれ。
お気に入りのシーンを一つ。
侵略されつくした学校から、ケイシー達六人がジークの家に逃げ込み、もしかしてこの中にエイリアンがいるのでは…とお互いを疑い出すくだりがある。
とっても「遊星からの物体X」のワンシーンにそっくり。
しかしこの場面が面白かったのは、エイリアンをいぶりだす手段がドラッグの摂取(中身はほぼカフェインらしい)なところ。
ドラッグをエイリアンが摂取すると死んでしまうが、人間が摂取しても命に別状はない。ただしラリる。
一人ずつ試して大丈夫かどうか確認していくのだが、このままエイリアンが残ったらその時点でダメじゃないか…!と思ってすごいハラハラした。
また、ドラッグ(ジークお手製)を吸った後の態度が、いわばそれぞれの飾らない気性なのかな…と思うと少し切ない。短いシーンなのでそんなにわからないけれどね。
いやしかしよかったです。
おすすめ。
宵山万華鏡/森見登美彦/集英社刊
装丁の大変良い本である。見るからに美しくてごちゃごちゃしていて、見る人が見れば、ああもりみとだな…と思う。
読みながら何度も表紙を眺めた。
6章構成で、それぞれの章の語り手が違い、ある年の京都祇園「宵山」を色々な角度から眺める。その断片的な祭の景色は、さながら万華鏡の如し。
といった風情の本である。読み終わるとまた少し違うのだが、まあそれはおいておく。
雰囲気としては「きつねのはなし」と「四畳半王国」の中間のような話である。
というか言ってみれば森見作品の視点集大成である。
個人的には太陽の塔で言うところの『腐れ大学生』視点が一番オモシロイので2章の宵山金魚が珠玉であったが、他の視点がマズい訳でもなく、こんな色んな話がよく一冊に纏められるものだと感涙を禁じ得ない。言い過ぎだが。
そういう意味でも万華鏡の名を冠するに遜色ない。流石である。
きつねのはなしに近いと言ったのはホラーテイストな章があるからで、
おおざっぱに分けてホラー2、ファンタジー2、コメディー2といったところ。
他作品にリンクするのは3章に登場する「ゲリラ公演『偏屈王』」だけである。
興味を持ったら「四畳半神話体系」もぜひ。といっても、向こうでもサイドストーリーでしかないのだが。
特筆すべきことでもないのだが、今回、何故だか登場人物の名前が覚えやすかった。
主人公の視点ではあるのだが、書き方が三人称だったのは理由の一つだろう。人物が人称でなく名称で呼ばれ続けるためだ。
万華鏡には相応しい演出だが、感情移入しづらいという難点はある。
もう一つ理由に、人物グループで名前が纏まっているのではないかと思う。
洲崎先生に岬先生、山田川に小早川。
最後に。
筆者は関東者であり、祇園の風習を知らない。
だからどこまで本当のことを言っているのか、最後までわからなかった。
毎度のことではあるが、森見作品を予備知識無しで読むのは危険だと思う。
なにしろ知識がなくても面白く読めてしまうのだから、妙な嘘を鵜呑みにしないとも限らないのだ。
…孫太郎虫ってなんだよ!!