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2024/04/29

宵山万華鏡

宵山万華鏡/森見登美彦/集英社刊


装丁の大変良い本である。見るからに美しくてごちゃごちゃしていて、見る人が見れば、ああもりみとだな…と思う。
読みながら何度も表紙を眺めた。

6章構成で、それぞれの章の語り手が違い、ある年の京都祇園「宵山」を色々な角度から眺める。その断片的な祭の景色は、さながら万華鏡の如し。
といった風情の本である。読み終わるとまた少し違うのだが、まあそれはおいておく。

雰囲気としては「きつねのはなし」と「四畳半王国」の中間のような話である。
というか言ってみれば森見作品の視点集大成である。
個人的には太陽の塔で言うところの『腐れ大学生』視点が一番オモシロイので2章の宵山金魚が珠玉であったが、他の視点がマズい訳でもなく、こんな色んな話がよく一冊に纏められるものだと感涙を禁じ得ない。言い過ぎだが。
そういう意味でも万華鏡の名を冠するに遜色ない。流石である。

きつねのはなしに近いと言ったのはホラーテイストな章があるからで、
おおざっぱに分けてホラー2、ファンタジー2、コメディー2といったところ。
他作品にリンクするのは3章に登場する「ゲリラ公演『偏屈王』」だけである。
興味を持ったら「四畳半神話体系」もぜひ。といっても、向こうでもサイドストーリーでしかないのだが。

特筆すべきことでもないのだが、今回、何故だか登場人物の名前が覚えやすかった。
主人公の視点ではあるのだが、書き方が三人称だったのは理由の一つだろう。人物が人称でなく名称で呼ばれ続けるためだ。
万華鏡には相応しい演出だが、感情移入しづらいという難点はある。
もう一つ理由に、人物グループで名前が纏まっているのではないかと思う。
洲崎先生に岬先生、山田川に小早川。

最後に。
筆者は関東者であり、祇園の風習を知らない。
だからどこまで本当のことを言っているのか、最後までわからなかった。
毎度のことではあるが、森見作品を予備知識無しで読むのは危険だと思う。
なにしろ知識がなくても面白く読めてしまうのだから、妙な嘘を鵜呑みにしないとも限らないのだ。
…孫太郎虫ってなんだよ!!

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2013/01/11 読後感想 Comment(0)

アドレナリン・ブレイク

アドレナリン・ブレイク(原題:BAD DAY)/イアン・デイヴィッド・ディアス/2008 イギリス

よかった。
しかしながら、この手の作品は数見ないので、コメントに困る。

ドキュメンタリ・タッチの映画である。独特のカメラワークと少ないBGM(音楽が使われたのは最初の場面二つとOP、EDだけ)によって不思議な気持ちになる。
その割には何故か退屈しなかった。
カット回しが優れて良いのだと思う。

邦題はある程度優れている。原題は、作中でも台詞として使われているが、「最悪の日」とでもいう。訳せばつまらない。訳さなくともそう印象的ではない。
アドレナリンブレイクというタイトルは、興奮させる展開を予想させる。或いは暴力の過ぎるこの作品を表した良いタイトルである。だが見終わっての感は、その題は的確ではない。

ずいぶん言葉が汚い。こんなに罵詈雑言を聞くことは、フランクなアメリカ映画でも少ない。聞かないだけで、向こうでは普通なのかなとも思う。字幕や吹き替えと比べながら聞くと、日本語って悪口の語彙がほとんどねぇんじゃねぇか、とすら感じるからだ。
言葉が汚いだけでなく、暴力も表現が荒っぽい。度が過ぎているというのではない。例えば顔を殴るにしたって、口が切れて血が出て頬が腫れて歯が折れて殴られた方はそれを舌で探して吐き出す。まで映す。
こういうのには本当に慣れていない。映画における暴力というのは映像の進化に遅れていて、記号化されているのだろう。殴るなら殴った、怪我をしたという事実があるだけで、殴った方の手がなんともないことすらよくあること。それで普通というか、当たり前と感じてしまうのは、何か創作的世界に毒されているのではないか。
(映画における、と言ったが、一般に映像全体の傾向だろう。)

翻ってBadDayでは、因果や禍根でなく暴力そのものをフィルムに収めるのが目的ではないかと思える。その上BGMもないものだから、変な叙情が入り込む余地はないし、身体を痛め付けた時に起こる"音"が耳に突き刺さる。記号的でない、実際には呆気ないような、妙にコミカルな音である。
そういった意味で、写実的な作品だと言える。現実はハードボイルドなのだ。

さて、どこ見てるんだと言われそうなことばかり書いて来て、粗筋に何も触れていないのだが、仕方ない。ストーリーはたいして問題ではない。言っておくべきことがあるとしたら、バッドエンドなことぐらいだろう。

レベッカ(主人公)は、その日全てを失ったのだ。



エンディングに近いシーンが冒頭と重なっているので、見終わってもう一回見ると、最初のシーンに震えた。
「神様、どうか助けてください」という台詞に込められた想いは、想像するのに難しいものじゃない。
しかしその内容は、初めに想像したものと違っていた。
もう一回観たい、と思った。




お気に入りのシーンを一つ。

レベッカがハリーと共にマーラと対決するシーンが印象的だった。
ハリーとマーラの手下がお互いに狙いを定め、一触即発となる場面。
これが普通のアクション映画なら、ハリーが最高にかっこいい反撃を決めて、あっという間に手下を倒し、マーラと魂のやり取りをしてから留めを刺すだろう。或いはこれがラブロマンスなら、タイミングよく踏み込んで来た警官隊に驚いた手下が発砲し、撃たれたが一命を取り留めるハリー、真実を知ったレベッカは罪を償って二人で生きていく決心をするだろう。
…そういう展開を強く期待してしまう自分がいた。
そんな結末が訪れないことは、強く感じられるにも関わらず。
心を強く持ちたいと思った。

2012/12/14 映画感想 Comment(0)

ザ・グリード

ザ・グリード(Deep Rising)/スティーヴン・ソマーズ/1998 アメリカ

鑑賞二回目。
今まで観たB級映画では最高傑作。
超スプラッターモンスターパニック。

豪華客船の処女航海を嵐と怪物とついでに強盗が襲う、というのが大体の粗筋。
主人公は強盗の雇われ船長で、行き先も目的も聞かず引き受けたという命知らず。
ハードな人生送ってる彼の口癖は、
"Now,what?"

難しいことは抜きにして、場面はどんどん展開していく。というか、じゃんじゃん人が死んでいく。
あまりに暴力的なので、絶望している暇もない。
なにしろ正体不明のモンスターだから、ものすごくやりたい放題である。分厚い気密扉だってボール紙みたいにぼっこぼこ、エレベーターはシェイクするし、トイレの排水溝から女性客を吸い込み、すごい勢いで追いかけて来たかと思えば後ろから静かに忍び寄ってみたりする。
海の生き物なのに水陸お構いなしだし、パワフルなのに知能もあると判明、タコの形なのに腕の一本一本に消化管があるっていうチートぶり。

忘れられないのは、怪物の見た目もわかっていない冒頭の方で女性客がトイレに吸い込まれるシーン。死ぬ間際に洗面台の蛇口を掴んでもぎ取るんだけど、ありえねーと思う一方で、死ぬかどうかという時の馬鹿力ってこのくらい出るのかも…という迫力の

グリードっていうタイトル訳がよい。超訳だと思うけれど、とても正鵠を得ている。
グリードとは乗客を一人残らず平らげようという腹を空かせたモンスターの名前だろうかと思うのだが、船に乗り合わせた人間はおよそみなさん強欲で、ただの金持ち連中はもちろん、豪華客船の船長は限りない夢と野望で自ら船を沈めようとしているし、国際指名手配されているコソドロ(※美女)も居るし、もちろん乗り込んで来た強盗達は並々ならぬ貪欲さの持ち主である。

本編と直接関係ないが、日本語字幕見てると明らかに原語より台詞が多い。
翻訳者の趣味だろうか?

2012/11/07 映画感想 Comment(0)

エクスペンダブルズ2

エクスペンダブルズ2/サイモン・ウェスト/2012・アメリカ


アクション映画。
いいよ。かっこいいよ。

なんといってもキャストが豪華ですね。
豪華な分他の作品などをネタに引きずってきているのでその辺は見る人を選ぶかなと思いますが。

CMの、乗用車のドアをちぎって投げる場面はクライマックスシーンです。
あれはちぎってるんです。
ラスボスを追い詰めていく展開にテンションあがりまくりで、興奮してるせいで笑いが止まりませんでした。
ブルース・ウィリスの「お前は戻りすぎだ!」も…ホントだいすき…。

話の構成はなんというか、非常に堅い作りでして。
1作目もそうですが
悪く言えばステレオタイプの、先の展開はわかっちゃうようなつくりなのですが、
わかっちゃってもアクション映画って場面場面を楽しめるから関係ないんですよねえ。
善悪がはっきりしているところなんか非常に古いハリウッド的に感じるのですが
その分キャラクターがすれてなくて好きになれるのでしょうな。


試写会が当たった人に連れてってもらったのですが
まず1を観とかねばと思って慌てて借りてきて観ました。
1も面白かったです。
2に比べてぐっとまじめに映画してました。他作品ネタなどなかったし。



以下、ネタバレというほどでもないけど登場人物についてちょっと語ります。
くだけます。

[続き]

2012/10/26 映画感想 Comment(0)

マリアビートル

マリアビートル/伊坂幸太郎

グラスホッパーの次作。
現実ならここはそんなにうまくいかない、というのがハードボイルド小説ならこれは脱ハードボイルド小説だ。
伊坂らしいどこかしらファンタジーというかファンシーな部分が文章の茹で過ぎを許さない感じか。
気持ちいー勧善懲悪物語ではないにしても、大分小説的で親切設計なエンディングを迎える。安心していいと思う。

ひとつかみに言えば面白いエンタメ。キャラクター設定がグラスホッパー的なだけで、明らかにシビアで異色だった前作に比べればいつもの伊坂さん。
舞台は東京発・盛岡行の新幹線「はやて」、その中で起こる群像劇。ジェットコースタームービーならぬエクスプレスノベル。

グラスホッパーとマリアビートルは伊坂作品には珍しく、登場人物がたくさん死ぬ。魅力的な人物がたくさん出てくるから大変つらい。

しかしながら。
物語のウェイトを占めるキーマン、王子君が気に入らない。
悪役であるのだが、人物にあるべき背景がない、空虚な創作キャラクターに見える。
なにも、バットマンで言うところのトゥーフェイスのように、過去の傷や事件があってこその愛憎すべき悪役、と言いたいのではない。なんというか、人間らしくない。薄っぺらい。

伊坂作品に出て来る(名前のある)キャラクターは、それぞれがかなり彫り込まれている。思想や性格がはっきりしていて、メインを張らなくても別の作品で書き込まれていたりする。

どんな作家でもそうだろうが、本来、登場人物は作者自身の一面である。それが、王子君に限ってはそうではない、という気がする。

まあかと言って「王子君の気持ちわかるわあ、俺も昔はこういうことしてたわあ~」という人がいたら正直怖いから仕方ないかな。

蛇足。参考文献のトップにある「リスクにあなたは騙される」。読んだしなんかそんな気はしたけどそういう本じゃないあれは。
面白いんですよ。

2012/08/21 読後感想 Comment(0)

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